刀の持ち方は「現代の剣道」と江戸時代の剣術では違う?
2021/02/26
私の体験なのですが、初めて日本刀を持ったとき、その重さに驚いた記憶があります。
私は学生時代から剣道を学んでいました。剣道を学んでいた頃は、何の疑いもなく竹刀で剣道の練習をしていたわけです。しかし、居合道を学び始め、居合の練習用の模擬刀(真剣ではないが、真剣に模した刀)を初めて手にしたとき、その重さに驚きました。
そうして疑問が生じました。
■「剣道で学んできた竹刀を使った技は、重い真剣では無意味では?」という疑問です。
現代の剣道では竹刀を使います。ですから、現代の剣道の技は、竹刀を使うことを前提とした「ワザ」なのですね。
竹刀は真剣と比べて「とても軽い」です。さらに、真剣と異なり「竹刀は柄の部分が長い」です。ですから、現代の剣道では、この竹刀の特性(軽く、柄が長い)を活かした「ワザ」ばかりです。
簡単に言うと「手首の動き」を主体とした、スピーディな動きの「ワザ」です。しかし、この「ワザ」は、竹刀の(真剣と比較して)「軽く、柄が長い」という事を前提とした「ワザ」なのです。
でも、剣道というのは「真剣」を使うものです。竹刀で練習するのは「真剣」では危険だからですよね。竹刀で練習するのはあくまで「方便」なのです。しかし、現代の剣道は「方便(竹刀を使って競技する)」がメインになっています。
現代の「剣道」は、竹刀を使ったスポーツだと考えるのなら、それで良いのですが、剣道を武術と考えるのなら、竹刀を使うことを前提とした「剣道のワザ」などは意味が無いですよね。
重い真剣では、軽い竹刀のような「手首の動き」を主体とした、スピーディな動きの「ワザ」なんて使えません。
もし、あなたが現代の竹刀だけの剣道を学んでいるのなら、あなたは日本刀で戦うことができますか?
重い真剣を使って戦う場合、竹刀の技は全く使い物になりませんよね。
■江戸時代の剣道の練習は、現代と竹刀の持ち方が違う?
現代の剣道とは違い、江戸時代は刀を使うことを前提として「竹刀」使い練習しています。ですから、江戸時代の剣道の練習では、竹刀の持ち方が現代とは違うのでしょうか?。
これは、葛飾北斎の「北斎漫画」(江戸時代末)に描かれている剣道の練習の風景です。
これは月岡芳年の浮世絵です。慶応3年(1867年)
これらの絵をみると、現代剣道の竹刀の持ち方とは違います。
江戸時代は「両手を付けて」竹刀を持っています。
現代の剣道は「両手を離して」竹刀を持っています。
この違いは、江戸時代の剣道は「重量のある刀」を使う事を前提として竹刀を使い練習をしているからでしょう。
野球のバットやゴルフクラブを持つ場合、両手を付けてグリップを持ちますよね。
その方が、バットやゴルフクラブを振り易いからです。「両手を離して」バットやゴルフクラブのグリップを持つことを考えたらすぐに理解できることと思います。
バットやゴルフクラブを振る動きは回転運動です。回転運動を行うには、回転軸は一つでないと上手く回すことはできません。
刀で斬る場合も「回転運動」を利用して「力強く」斬るのです。
ですから、刀で斬る場合も「野球のバットやゴルフクラブ」のグリップを持つのと同じように「両手を付けて」刀の柄を持つのだと思います。
しかし、明治時代の浮世絵を見ると、刀の柄を両手を「離して握る」絵も見受けられます。(私が調べた範囲です)
これは歌川豊宣の浮世絵です。明治16年(1883年)
これは右田年英の浮世絵です。明治26年(1893年)
■江戸時代の後期には、刀の柄を両手を「離して握る」「付けて握る」両方の流派があった
下記の絵を見てください。これは江戸時代後期、江戸城で行われた異なる流派の剣士の武術上覧の様子を描いた楊州周延(ようしゅうちかのぶ)作、「千代田之御表・武術上覧」です。
竹刀の持ち方は両手を「離して握る」「付けて握る」両方の流派があるのが分かります。
■刀の柄を持つとき、両手を「付けて握る」のか「離して握る」のか?
では、刀の柄を持つ場合は両手を「付けて握る」ようにするのが正しいのでしょうか?
この「刀の柄の持ち方」について、私では結論は出せませんでした。
現代に伝わる「古流の剣術」の諸流派でも、刀の柄を「両手を付けて持つ」流派は、私が調べた範囲ではありませんでした。
また、日本に写真が入ってきた、幕末から明治時代の剣術等の写真などを調べても、刀の柄を「両手を付けて持つ」写真は(私が調べた限りでは)無く、現代の剣道と同じく、刀の柄は「両手を離して持つ」写真ばかりでした。
ただ、武術家の甲野善紀さんのが、この「刀の柄の持ち方」について考察していました。
興味のある方は、ネットやYouTubeでも甲野善紀さんの動画等を見ることができるので検索してみてください。
甲野善紀さん御自身は、居合では真剣の柄は北斎漫画で描かれているように「両手を付けて」持っています。甲野さんの解説によると、このように「両手を付けて」刀の柄を持ったほうが刀を素早く動かせるそうです。
※甲野善紀さんは、私が調べた範囲では、2003年頃には竹刀や刀の柄は「両手を離して」握っていましたが、2017年頃の動画では「両手を付けて」握っています。
この変化について興味のあるかたは、甲野さんの著書やDVDなどを参考にしてください。
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■日本刀の「樋(ひ)」(血流し)は「刀身の軽量化」のためではない
詳しくは⇒http://oyajika.com/7308.html
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