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日本刀の「樋(ひ)」(血流し)は何のためにあるのか?

      2019/06/17

日本刀の「樋(ひ)」別名「血流し」は何のためにあるのかご存知ですか?

私が日本刀に興味を持ち始めたとき、日本刀の刀身に彫られている細い溝は何のためにあるのかわかりませんでした。わざわざ手間をかけて、こんな溝をを刀身に入れる理由は何故なのだろうと疑問に思いました。

そこで、日本刀につてい書かれている書籍を読んだり、ネットで調べたり、居合道の高段者の先生に聞いてみたりと、私なりに色々と調べてみました。
しかし、私が納得できる理由を知ることはできませんでしたが、これまでに私が調べた範囲で日本刀の「樋(ひ)」の機能につてい解説したいと思います。
 
 

★「樋(ひ)」「血流し」と言われる溝はこれです。

 
 

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■日本刀の「樋(ひ)」の機能につての一般的説明

日本刀の解説書などに書かれている「樋(ひ)」の機能につての一般的な説明を列挙してみます。
 
 

(1)刀身の軽量化が目的

日本刀に「樋(ひ)」を入れる理由として、この「刀身の軽量化が目的」という見解が一番多いようです。

少し前に、あるテレビ番組で日本刀の若い刀匠が刀を作る過程が放映されていました。番組の中で、その刀匠は「樋を入れることで、刀の重量を1割ほど軽くすることができます」と言っていました。この刀匠は、「樋」の役割を「刀身を軽くする」と理解しているようです。
 
 
 

(2)刀身の左右からの力に耐性を持たせるため

建築に使う「H形鋼」や、鉄道レールなどを例に出し「左右に溝を入れる」ことで、刀身の左右からの衝撃にたいして耐性を持たせるのが樋を入れる目的という説明です。

あるいは、樋を掘ることで刀身全体が圧力や曲げに強いH型鉄骨と似たような性質を持つと説明します。
また、樋を入れることで、刀身の左右からの衝撃にたいして耐性を弱らせることなく、刀身の重量を軽くすることができるという説明もあります。

 
 
 

(3)刀身に付着した血を溝を伝って流すのが役割

「樋」は「血流し」とも呼ばれますが、刀身に付いた血をこの溝を伝って流すためという理由です。
 
 
 

(4)日本刀の制作過程で刀身に出来た傷を隠す為に掘られる

日本刀の制作過程で刀身に出来てしまった傷を消す為に「樋」を掘るという理由です。
 
 
 

(5)美観を整える為に「樋」は入れられる

これはある有名な刀剣鑑定家の著書に書かれていた説明です。確かに、装飾が目的としか思われないような「樋」が入れられている日本刀も見受けられます。

 
 
 

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■日本刀の「樋」の機能につての一般的説明に対する「私の疑問」

(1)「刀身の軽量化が目的」という説明への疑問

私は日本刀が好きなので、日本刀を鑑賞するだけでなく、実際に日本刀を使ってみたいと思い「居合道」を学んでいました。
居合道で実際に日本刀を使って感じたのは、「日本刀は軽い方が良いのか?」ということです。

例えば「ゴルフクラブ」や「野球のバット」は軽いほうが良いのでしょうか?

「ゴルフクラブ」や「野球のバット」も、それを使う人にとって最適な重量があるはずです。クラブやバットが「軽ければ軽いほど良い」というものではありませんよね。

日本刀を使い、実際に試し切りをする場合、その人に合った重量の刀剣が、その人にとってベストの日本刀なのです。
日本刀も「軽ければ良い」というものではないのです。

さらに、日本刀を実際に使ったことがある人ならすぐに判るはずですが、樋を入れた日本刀を使うと、樋が刀身の空気抵抗を増し逆に刀がとても重くなるのです。

樋が入っている日本刀を振ると、空気を切る「ピュッ」という音がしますよね。あの音が出るということは、それだけ空気抵抗が強くなったということです。

棒の先端にタオルを付けて振ると、タオルの空気抵抗で棒が振り難くなりますよね。丁度あの感覚です。

ですから居合の高段者ほど「樋入り」の日本刀は「重くなる」ので使いたがらないと聞いたことがあります。

刀身を軽くするために入れるという「樋」ですが、実際に刀身に「樋」を入れると逆に刀身は重くなるのです。
日本刀でも樋の入っていない「鎬造り」の刀と比較したら「樋入り」の刀の空気抵抗の強さが実感できるはずです。
 
 

日本刀の重量はバランスで決まる

「日本刀の体感重量」は刀身の重さで決まるわけではないのです。
野球でも、バットを「短く持つ」のと「長く持つ」のでは、バットの体感重量は異なるのは理解できるでしょう。
短くもった方がバットが軽くなるのでヒットを出しやすくなりますが、ホームランは打てないですよね。
バットを長く持ったほうが重量は重くなるので、ボールへの打撃力が強くなりホームランが出やすくなります。
日本刀も同様で、日本刀の重量バランスで「体感重量」が変わるのです。
 
 

これは古代ローマ帝国の兵士が使っていた剣(レプリカ)です。盾を持つので、剣は片手で使います。ですからこの様な短い剣の方が使いやすいのです。

この剣を見ても判るでしょうが刀身には「樋」が入れられています。さらに柄頭の部分は丸く膨らんでいますよね。
この部分をわざわざ重くすることにより「剣の総重量」は重くなりますが、剣の重心は手元に近くなるので「体感重量」は軽くなり、片手でも扱いやすくなるのです。

 
 
 

(2)「刀身の左右からの力に耐性を持たせるため」というのは本当なのか?

この「刀身の左右からの力に耐性を持たせるため」という説明は工学的には意味が無いそうです。

「H形鋼」や「鉄道レール」などでも、あのような形にしたからといって、全体重量の軽減にはなりますが強度が増すということはありません。

私の経験でも、「樋」の入った刀は、樋の無い「鎬造り」の刀より横からの衝撃には弱いと感じます。
 
 
 

(3)「刀身に付着した血を溝を伝って流すのが役割」という説明は無意味では?

刀身に付着した血を溝を伝って流す為に、わざわざ刀身に溝を彫るという説明には意味がないですよ。

刀剣とは、それを使う者には命をかけた戦いの場で使うのです。
刀身に付着した血を溝を伝って流すことに何か利点はあるのでしょうか?
 
 
 

(4)「刀身に出来た傷を隠す為に樋を入れる」という理由への疑問

日本刀の制作過程で刀身に出来てしまった傷を消す為に「樋」を掘るとのことですが、これは実際にあるようです。
刀の制作過程や、完成後に出来た「傷」などを消す為に「樋」を彫り入れる事で、その傷を消し去るとのことです。

しかし、この説明も刀身に「樋を入れる」本質的な理由にはなりません。あえて刀身に「樋を彫り込む」には、もっと本質的な理由があるはずです。
 
 
 

(5)「刀身を美しくするためにいれる」という説明への疑問

日本刀を見ると、確かに刀身の美観を整える為に入れられていると思われる「樋」はあります。
しかし、この説明も刀身に「樋を入れる」本質的な理由にはなりません。

日本刀というのは、それを使う者には命を掛けた戦いの場で使う武器なのです。
そのような日本刀に「美観」の為に「樋」を入れるなどというのは理由になるでしょうか?
 
 
 

■刀身に入れる「樋」は日本刀だけに彫られているのではない

この「樋」ですが、日本刀だけに入れられているものではありません。日本の刀剣類でも「槍」「短剣」をはじめ、世界の刀剣類にも彫られています。
 


 
下の写真はツタンカーメン王の墳墓から発見された3000年以上も前の短刀ですが、この短剣にも「樋」が入れられています。
つまり、3000年前でも刀剣に「樋」を入れなければならない理由が認識されていたということです。


 
 
 

■刀剣の「樋(ひ)」の機能について、私の見解

日本刀に限らず、世界の刀剣類にも「樋」が彫り込まれていますが、この「樋」の機能につて私の見解を書いてみます。

この「樋」が入れられている刀剣類に共通するのは「突き刺す」武器であるということです。日本刀も、「切る」だけでなく「突く」機能もあります。

動物の筋肉は強い衝撃を受けると体を守るためにギュッと「収縮」するように出来ているそうです。
この筋肉が収縮する力は、想像以上に強く刀剣類が「抜けなくなる」くらい、強い収縮力だそうです。丁度、刀身に「筋肉の吸盤が吸い付いた状態」になるのです。

これは近代の戦争などで白兵戦を経験した人達の体験記などを読んでも、そのような記述を見ることがあります。

では、壁などに付いている吸盤を剥がす場合にはどうしますか?

吸盤の隅を少し剥がすようにして、吸盤内に空気を入れると、すぐに吸盤は剥がれますよね。

刀剣類の「樋」も、これと同じ機能をするのです。

この「樋(みぞ)」部分から空気が入るようにすることで、強く収縮した吸盤のような筋肉の吸着から刀剣類を抜けやすくするのです。

 
 

 

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